【自伝(5)】役に立たなくても現場に行った方が良い

製鉄所の自動化プロジェクトにおいて一番苦労するのが、

お客様の工場テスト中に起こる原因不明の不具合だ。

現場で運転確認をしているテスト員たちから

不具合の情報を集め原因を特定し、解決を試みた。

製鉄所は24時間動くので、解決するまでテスト員が

交代制で人質に取られる。

装置が止まった際は、その場で対処するよう

お客様に要求されるからだ。非がこちらにある場合、拒否権はない。

製鉄は一度、動き出すと停止することができず、

万が一止めようものなら、億単位の損失になるからだ。

味方であるはずの現場のテスト員たちからは

「早くどうにかしてくれ。頼みますよ!」と恨み言をもらい

お客様からは「原因を早く特定し、説明に来い!」と言われる。

まずは現状の手持ち情報を整理して

考えられる原因を関係者である

製品開発、品質保証、テスト員、ソフト設計、ハード設計にて

協議して全て出す。

考えられる原因をもとに

現場から得られるデータと答え合わせを行い

どれが正しい原因かを確認する。

確認とその結果からの試行錯誤中は現場に行っても

設計者にできることは何もない。

データの採取はテスト員が行うため、それを手伝っても

かえって足手まといになるからだ。

しかし、役に立たなくても一度は現場に行った方が良いと感じる。

理由は三つある。

・現場の空気感を体感するため

・送られてきていた報告、データの整合性を自分の目で確認するため

・お客様に心理的な不信感を抱かせないため

 (現場に顔を出さないと何もしてないんじゃないかと疑われる)

もちろんリスクもあり、「さあ、説明しろ」お客様に詰め寄られる可能性も

あったが、何とかこの時は回避した。

ある程度、原因が特定できた段階で不具合の仕組みを

文章にまとめる。

開発レベルの不具合だと、自分の頭では理解不能なので

専門家の説明を自分の腹に落とした上で

お客様にわかる言葉に翻訳しなければならない。

また、過去にあった不具合事例と今回で

不整合がないか品質保証と確認を行う。

文章が出来た段階で営業からお客様にお伺いを立ててもらい、

説明をする段取りを整える。

12人の現場の鉄鋼マンの前で説明を行い、了解が得られれば

さらなる検証と、対策案の実行ができる。

このときは中間報告書も含めて4回見解書を提出し、

お客様への説明を行うことで了解を得ることができた。

現場のお客様がどの程度ピリピリしているのか、

状況を把握してから説明の場に行った方が良い。

役に立たなくても現場に行くと、その状況が明確にわかる。

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